松田選手考(3)〜成熟への道とは? 秋田選手とカズ選手

日本代表のディフェンス陣のなかでも、攻撃的センスをもち、ポストプレーも可能なスタイルを持つ。全盛期のマリノス時代、公判で得点は欲しいときの攻撃参加をみていると、FWでも十分にプレーできることがよくわかる。

しかし、ディフェンスの攻撃能力として鮮やかに示されるのは、イタリアのバレージ選手のように、深い読みで相手のパスをカットし、守備から攻撃への転機を作ることがである。
更にトップの選手へのフィードの正確さが求められる。オランダのフランク・デブール選手のように。

これに比べると、ディフェンスの攻撃参加はもろばの刃でもある。特に前へ出て反撃覚悟で戻らずにいる場合である。ツーリオ選手のように不思議なほど得点を入れる選手もいるが、得点はレアケースであり、結果としてチーム戦術は成功しない場合が圧倒的に多い。

それでも、松田選手が攻撃参加をするときは、多くのチャンスを作り、生き生きとして、攻撃能力の高さをみせる。そして、やっぱり、FWで攻撃がしたいのだなぁ〜と…見える。ディフェンスのプレーも余裕があり、それゆえの慎重さを欠いたプレーもみられた。

ディフェンスは守備の能力である。体力的全盛期を過ぎていけば、当然、それを補う知力を身につける必要がある。更に大切なのは、精神的なことも含めてチーム全体の柱になることだ。ここに成熟のきっかけがある。

鹿島の秋田選手を松田選手と比較すれば、サッカーの資質は松田選手が高いことは明らかだ。しかし、秋田選手はディフェンスとして自らを磨いていった。そして、チームの中心として優勝に貢献した。今では、S級コーチライセンスを取得してJリーグの指導者としての位置にある。おそらく、自らの特長と限界を認めた時期が彼にあったはず、そこが見た目には判らない転換期であったのだろう。

カズ選手は現役最年長を更新している。生涯現役、それはカズ選手そのものを現していると多くのファンが思っているだろう。このセルフイメージとパブリックイメージとの一致がベテラン選手としての成熟の証左である。
おそらく、W−Cup・フランス大会予選の最後に交代したときから日本代表を外されたあとまであたりが、彼の転換期であっただろう。それを見事に乗り切って、新しい選手像を、この老年層の増大期に合わせて、築きあげた。

『成熟と喪失』のなかで江藤淳は、「成熟とは喪失を確認すること」と述べた。寿命の短いサッカー選手にとって喪失を確認する時期は年若くして来る。如何に対応するのか、それはその選手の内側も含めてこれまでの人生を象徴することになる。しかし、それはサッカーを越えているが故に、その人にとってのオリジナルな人生を切り開くことになる。サッカーを続けたとしてもである。

松田選手はその契機を掴むことができずに世を去った。教訓を引き継ぎながら冥福を祈るほかはない。