「EU」の始まり、「石炭鉄鋼共同体」からの教訓〜集中と決断〜


 ハンナ・アーレント女史が展開した「全体主義の起原」(全3巻 みすず書房)は、フランス革命の後に打ち立てられた国民国家が、その内部における公衆秩序の融解によって崩壊していく過程、ドレフェス事件に象徴される反ユダヤ主義帝国主義を経て全体主義に辿り着く過程を描いている。

それと並行して国家間における勢力均衡体系という平和の構造(米中和平の推進者であるH.キッシンジャーの言う“a world restored”)が崩れ去って、世界大戦へと突入していく。「全体主義の起原」の末尾は「始まりが為されんがために人間は創られた」(聖アウグスティヌス)との言葉によって結ばれている。

 「石炭鉄鋼共同体」こそは、その崩壊したヨーロッパが立ち上がって今日の「EU」へ到達する始まりであり、将に「始まりが為されんがために人間は創られた」ことを見事に表象しているといって過言ではない。その提案者とされるフランス人ジャン・モネが“ヨーロッパの父”と呼ばれる所以である。

 「石炭鉄鋼共同体」の成り立ちについては、新書として読み易く、また、ヨーロッパとアメリカを対比させながら、ヨーロッパの考え方を分析している「ヨーロッパ型資本主義」(福島清彦 講談社現代新書)に簡潔に描かれている。


 福島氏は、ヨーロッパの復興に関し、以下のことを瞠目すべきことと指摘している。
 1)モネが第二次世界大戦末期から経済統合の必要性を考えていた
 2)石炭と鉄鋼の経済的統合は手段であって、目標は信頼関係樹立による政治的同盟
 3) モネの提案から仏外相シューマンのプラン発表まで22日の決断

 筆者も同感である。道州制に関連して日本が学ぶべき点はここにあるのであって、どこがどこに似ているというようなことは本質ではない。特に、短期間での集中と決断。問題意識の深さと決断の構造こそが“道州”という新たな「共同体」の成立に不可欠であろう。


 「吉井 俊夫のHP・散歩から探検へ」:川崎市政関連の論考を掲載。
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