管直人首相と現実主義〜団塊世代の最良部分〜

 大学紛争から一市民として市民活動へ、続いて革新無所属から民主党結成へ、そして政権奪取から首相へ、これが管直人氏の政治的軌跡である。これは“奇跡”ではないにしても極めて珍しいことだ。
 最近の、鳩山、麻生、福田、安倍と首相経験者の子孫が続けて首相になった後だからなおさらである。

 「…大学紛争の渦中から、何かを身体で学びとり、政治的人間に成熟していく、あらたな世代の覚醒に、わたくしは多くを期待している。現代の危機を乗りこえる唯一の道は、そのような世代の成熟をおいてないからであり、…」(『柔構造社会と暴力』「あとがき」永井陽之助著 中央公論社1971)。

 市民活動をベースにした首相の誕生は、その首相就任演説の外交問題で引き合いに出した故永井氏の期待に答えた、政治的人間として、政権団塊世代の最良部分であることは確かである。

 もちろん、ケチをつけることは、いくらもできる。しかし、首相としてのこれまでの仕事は、誰がやってもここまで出来るかどうかわからない、という程度までは行き着いている。
 鳩山氏の業績は沖縄問題でマイナス、菅氏はこれを何とか持ち直した。これだけでも、その差は歴然としている。

 菅首相はあくまでも現実主義者として振る舞ってきたように見える。消費税問題も、小沢問題もしかりである。それが右往左往のように見えるのは世論も、新聞も、党内も、反対党内も右往左往しているが故に、位相がずれるからであろう。ともあれ、政権交代による期待値、いささか虫の良い期待値が跳ね上がったため、落ち込みの落差が大きいことはしかたあるまい。

 「時代の変化と共に柔軟に生きてきたリアリスト」、これは薬師寺克行氏が『90年代の証言 管直人』(朝日新聞社2008)の解題で述べた言葉だが、位相のずれを自ら修正し、世論、新聞、党内、をシンクロナイズさせることも可能である。

 『史上最大のお騒がせ世代は、最後の爆薬を隠し持っている。』
  The Economist (英エコノミスト誌 2011年1月1日号)
  http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5174

 1946年から1964年にかけて推定7800万人の米国人が生まれた。2011年にはその第1陣が一般的な退職年齢である65歳に達する。今後、退職者の数が増えるにつれ、退職に伴う費用の重荷も増していく。同時に、選挙におけるこの世代の重要性も一層高まっていくだろう。

 流石に、英エコノミスト誌は表現が巧い。米国の人口動態と経済の関係からベビーブーマーの政治的表現を批判している。人数が基本となる政治の世界で、日本も同じように年寄り世代が自らの既得権益を主張するようになると…。

 もし日本もそうなら…、と菅氏が考えたならば、消費税は喫緊の問題と自覚を深くしたに違いない。各論反対の圧力団体的行動がこれまでよりも陰に陽に激しくなることも心配に違いない。そのなかでの現実的な政治課題は何か。菅氏の思考のスタイルはようやく周囲に理解されてきているようにも思える。