市場原理 格差広げた 志水宏吉・阪大教授

橋下知事の学テ結果公表に対するコメント〜

朝日新聞のネット記事。
asahi.com 大阪版 2008年10月18日
http://mytown.asahi.com/osaka/news.php?k_id=28000000810180002

 実は志水宏吉・阪大教授に個人的思い出がある。大学生でいえば2年生。その連中が小学生のとき、お隣の少年サッカークラブのコーチでお付き合いした。当時、気鋭の東大助教授で、何で東大の先生が?とコーチ仲間で噂をしていた。教育学専攻とお聞きし、実践活動の一つね、とお互い納得した次第であったが、年中行事のコーチ親睦サッカーでプレーをしてその考えが間違っていたことが判った。要するにサッカーが大好きだったからであると!

以下、インタビュー記事である。
  橋下徹知事は16日、35市町村の全国学力調査の科目別平均正答率を公表した。序列化につながる懸念などから公表しないよう求めた文部科学省の通知を無視しての判断。「序列化が生じるのか、今後じっくりと見させてもらう」という。海外の教育改革に詳しい大阪大の志水宏吉教授に、英国で行われた同様のランキングがどのような結末を迎えたか聞いた。

◆学力調査公表 英国の先例は?
 ――橋下知事は市町村ごとの平均正答率を部分開示しました
 知事が言うように、点数が公表されて順番がつくといい意味での競争が生まれるかもしれません。一方、数値を出せばそれが独り歩きして学校や地域間の序列化につながり、結局は学力格差が拡大するおそれがある。私は、メリットよりデメリットの方が大きいと思います。実際に起きた事例を目の当たりにしたからです。
 1991年から93年にかけて英国で研究をしていたとき、サッチャー首相の教育改革が行われ、全国一斉テストが導入されました。結果は学校ごとに公表され、プロサッカーになぞらえて「リーグテーブル」と呼ばれる順位表を主要紙に掲載。あわせて学校選択制を導入したため、結果として点数が高い学校に生徒が多く集まるようになりました。生徒数に応じて予算も配分された。教育現場に市場原理を持ち込んで競争を促すことで、学力を向上させようとしたんです。
 その結果、学力向上については一定の効果はありましたが、勉強ができる子とできない子の格差が広がった。成績のいい学校は人が集まり教育環境も充実する、悪い学校は逆の現象が生じるのだから当然ですよね。強いものは勝ち、弱いものは負ければいいと。随分世知辛くなった。

 ――大阪では学校選択制は行われていません。成績を公表するだけで同様の問題が起きますか
 市町村ごとの成績が公表されれば、保護者は引っ越してでも成績のいい地域に子どもを通わせようとするかもしれない。不動産会社も「ここは学力の高い地域」と住宅販売に成績データを利用するでしょう。おのずと地域の序列化を招くことになります。
 橋下知事は学力調査の結果が出たとき、「このざまは何だ」「民間なら減給は当たり前」と教育委員会と現場の教職員を厳しく批判しました。これは、結果が悪かった自治体や学校はさぼっているからペナルティーが必要で、逆に上位だったところにはご褒美をあげようという論理にも聞こえます。競争原理でとにかく頑張らせようというのは、格差拡大を招いたサッチャー改革と重なります。
 現実には、平均正答率が高いからといって必ずしも頑張っているわけではなく、逆に平均正答率が低いからさぼっているわけでもありません。学校が立地する地域の社会経済的な要因で学力は大きく左右されます。上が頑張っている学校、下がさぼっている学校という単純な図式ではなくて、実は、上は恵まれている学校、下は不利な学校という構図です。

 ――社会経済的な要因とはどのようなものですか
 経済的な要因はもちろん、文化的な要因もあります。教育を地域、家庭がどのくらい重視するか。全国上位の秋田では多くの子どもが当然のように宿題をこなすが、大阪では「別にやらんでもええわ」と考える子も結構いる。背景には、宿題なんかしなくても食べていける、もっと楽しいことに時間を使うべきだという考え方や価値観があることは否めません。これは、都市化の度合いとも関連しています。

 ――とはいえ情報公開が求められる時代。結果の公表を求める保護者も多い
 全く出さないのも適切ではないでしょう。税金を使って実施した調査なのだから、行政には説明責任がある。とはいえ、背景の要因に差があるもの同士を同じ土俵で比べるのは公平ではありません。
 例えば平均正答率ではなくて「通過率」という考え方を用いるのはどうでしょう。ある正答率をハードルとして設定し、それを上回った子どもが全体の何パーセントいたかという分析です。これだと学力の低い層を支えている学校の頑張り具合もわかります。
 失業率や単身家庭率、就学援助率など、学力と密接な関係がある地域の要因や社会的背景を併記することも必要です。数値の独り歩きを防ぐ手だてになるし、行政のトップとして橋下知事自身にも責任が出てくる。低学力の背景にある社会構造を改善するのは行政の役割です。市町村教委に数値の公表を迫るだけでは無責任ではないでしょうか。

「パネル討論会のお知らせ」

「あなたが求める市議会とは〜議会改革へ向けての市民の役割〜」

日時 10月31日(金)18:30ー21:00 入場自由・無料
場所 川崎市多摩区役所 6F会議室(予定) 登戸駅下車 10分
主催 多摩区選出議員と市政を語る会(実行委員長 木村功

パネラー(敬称略)
 相模原市 相模原市議会を良くする会 赤倉 昭男
 小平市  政治・知りたい、確かめ隊 森野 やよい
 多摩市  市議会ウォッチングの会  神津 幸夫
コーディネーター
 川崎市  実行委員会 オブザーバー  吉井 俊夫