住民投票〜意思決定への住民参加〜 岡本三彦・東海大学

自治体学会「ふくしま自治体政策フォーラム」(08/7/5)に参加(続き)。
http://d.hatena.ne.jp/goalhunter/20080705/

 会参加の動機はつい先頃の「川崎市住民投票条例」制定。即ち、日本(世界も)における住民投票制度の中に今回の“川崎市騒動”を位置づけ、今後の自分たちの活動及び他地域の方の活動の役立てようというもの。参加者はほとんど福島県を含めて近隣県から。
 会員として案内は頂いていたが、当初は電車賃もかかるし思って…急遽、下記の岡本先生との意見交換を思い立ち、参加することにしました。
 有益なお話ができましたので勝手ながら皆様へ報告することに致します。

 今回は、「自治体研究の最前線」とのタイトル 13−18時
 講師はその分野の第一線で活躍している気鋭の若手(中堅)
講演
 創造的政策評価の時代          佐藤 徹・高崎経済大学准教授
 住民投票〜意思決定への住民参加〜    岡本三彦・東海大学准教授
 自治体における社会的基盤構築とその財源 沼尾波子・日本大学教授
分科会 講師ごとに別れて
 筆者は当然、岡本三彦准教授のグループ
懇親会
 福島及び近隣を中心に会員の方、講師の方との交流

 岡本准教授は「比較地方自治論」を専攻(比較とは「世界の中の日本」という問題意識で欧米も含めて研究対象にしている分野)しています。
 そこで、「意思決定への住民参加」に注目です。何と、川崎市住民条例「議会或いは市長が意思決定した事項は基本的に住民投票に係らない」と正反対です。

 分科会の中で座長の方が「吉井さんが川崎からわざわざ来ておられるので…」ということで状況説明の時間をつくってくれました。
 深謝!深謝!で、経緯の話は以下の二点でした。

1)自治基本条例、住民投票条例は共に市長のリーダーシップによって制定、その意味では市長を評価。しかし、上からの住民自治の副作用も大きく、具体論では要所で行政の意向が反映(市民の力量不足)、形式に流れる傾向。

2)今回の川崎市住民投票条例は、公募委員も入った検討委員会での提案が行政側段階で住民側の権利を狭めるように変更され、住民に対する説明も質量共に不十分なまま議会に上程され、多くの疑問点が残されたた状態で採択された。

 それに加えて個人的な意見として、「何を案件とするのか具体的検討が必要」と述べたところ、岡本准教授が「タイミングを待っていた」とおっしゃり、研究されているチューリッヒ市の例を資料配付して説明された。
(『現代スイスの都市と自治チューリッヒ市の都市政治を中心として』
 早稲田大学出版部、2005年)

 先ず、自治基本条例が300条近く、がっちりと細部まで決められている。
 住民投票条例での案件規定では、
 例、市会で決定したことでも有権者4,000人の署名(市民は36万人)
 例、20億円以上の施設建設等は必須
 この考え方の基本は“少数意見の尊重”とのことです。
 討論によって“少数”が多数に変わっていく過程が有り得ることをこの制度は表現しているように思われます。

 更に岡本准教授は筆者の説明で「新聞報道で注目していたが、様子が直接聞けて良くわかった」として、以下の問題点をコメントとして述べました。
1)意思決定した案件を除く規定や市長が案件を判断すること
2)市長或いは市議会議員選挙と同日実施になるケースがあること
 そして、チューリッヒ市の例と比べながら、“構えずに”制度をつくり、実施していくことを強調された。その意味する処は、直接民主主義と間接民主主義との調和などという言葉だけの空疎な議論ではなく、実質的な住民自治を推進する方法を考え、実行することが大切だと解釈します。

 “少数意見の尊重”と“構えずに”という姿勢、これが住民投票制度の理念ともいうべきポイントであると納得した次第です。
 ともかく充実の一日でした。

  付記 上記の会そのものは「第100回」。関係者の努力の証というべきで、先ずはおめでとうございます。