論文評『「欧州のかたち」(将来像)は「連邦」か「連合」か』

 本論考は田中友義駿河台大学教授の筆になるもので、季刊『国際貿易と投資』 Spring 2003/No.51, P19 に掲載された。

 欧州統合を巡る論争は、EUの始まり、石炭鉄鋼共同体の設立当時からあった。国家を基盤とした「連合」論、統合を目指した「連邦」論である。政治家の立場と個性が重なりあって主張が展開される様を本論文は見事にとらえている。

 初期の「連合」論者は、言わずとしれたド・ゴールであり、サッチャーであった。

 ド・ゴールは「欧州一体化は諸国民の融合ではなく、これらの一貫した接近を通じて実現でき、また実現せねばならない。欧州諸国の協調組織をめざし、やがては諸国の国家連合に行きつくであろう」と述べた。

 サッチャーは「欧州各国が、フランスはフランスとして、スペインはスペインとして、英国は英国として、それぞれが独自の慣習と伝統とアイデンティティーを持っているからこそより強くなるからであり」、「独立した主権国家間の自発的で緊密かつ活発な協力関係強化こそ、EC建設のための最善の方法である」と述べた。

 一方、ミッテランは「諸国家の連合」(Union of States)の創設を説き、「欧州共同体を、諸国家の連合としての属性をすべて備えた1つの統一体に改変することである。すぐに古い民族の自己本位の壁にぶつかってしまう国民国家の欧州と、心豊かなユートピアではあっても政治的現実性を欠いた超国家的欧州との間に、もっと実際的な道が大きく開かれている。構成諸国民のアイデンティティーを尊重しながら、それぞれの差異や排他主義を克服できる欧州であり、歴史上に類例をみない政治的な統一体である」とした。

 コールは「欧州合衆国」の創設を主唱し、その欧州建設の中心目標は、「欧州の政治的統合である。しかし、目標とする欧州は一段と中央集権化することではなく、地域的な特性と伝統を尊重し保持する市民の欧州である」と述べた。

 自らの国家利益をベースにしながらも、欧州統合という公益に向けての提言の核心を正確に捉え、そこにそれぞれの政治家の個性を浮き出させている論考である。


「吉井 俊夫のHP・散歩から探検へ」:川崎市政関連の論考を掲載。
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