メルマガ 第157号 2011/4/13 岐路に立つ議会改革〜川崎市議会選挙2011

探検!地方自治体へ 〜川崎市政を中心に〜 第157号
★岐路に立つ議会改革〜川崎市議会選挙2011〜★
 1.問題の所在
 2.定数削減のシミュレーション〜川崎市横浜市との比較
 3.“敗者としての議会”から脱却へ

1.問題の所在

統一地方選挙民主党の大敗、管政権へ打撃、とマスメディアは報じている。

しかし、前回報告したように、川崎市議会の4年間の議会活動で、民主党自民党公明党の3会派は揃って、市長提案をすべて追認した。従って、議会活動を正面から評価したのであれば、民主党だけが評価を下げることはない。他の自治体においても大同小異ではないだろうか。
 156号 2011/3/31「市議会活動、4年間」の検証・評価
http://www.h7.dion.ne.jp/~as-uw/images/mail_magazine/156.html

民主党の大敗は、民主党中央の政策・政治運営に対する評価、言い換えれば、川崎市議会選挙が“国政代理選挙”の側面を強く持つことを示している。加えて、既存政党への不信感、議会の形式性・閉鎖性への批判が底流に渦巻いている。一方、大阪の「維新の会」、名古屋の「減税日本」などの首長中心の会派は川崎市に生まれていない。そこで、

『「民主から流れたと思う」みんな躍進で阿部市長が分析』4/11カナロコ
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1104110051/

結果を受けて、各会派は議会改革の必要性を強調している。

『民主「有能な人材失った」、みんなの党は初挑戦で6議席』4/12 カナロコ
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1104120004/

ご同慶の至りであるが、どの方向へ向けての改革なのか?しっかりと見定める必要がある。ここでは、選挙結果の分析を通して、今後の議会改革が岐路に立っていることを明らかにする。

2.定数削減のシミュレーション〜川崎市横浜市の比較

以下に今回の川崎市議会選挙結果の特徴を示す(表の「今回」を参照)。
みんなの党 自民党 公明党 無所属 共産党 民主党 ネット
 躍進    維持  維持  維持  維持  退潮  脱落

1)『みんなの党』が初選挙で6名(議案提案権有り)
2)『自民党』、『公明党』合計29名、過半数(30名)には到達せず
 以上が大きなポイントである。次に、
3)『自民党』、『公明党』、『共産党』は現職中心に現状維持
4)『民主党』の前職減少(ー8名)と新人の台頭(+4名)
5)『無所属』は現職ひとりだけ、少数会派『ネット』の脱落

川崎市  今 回      削減案      横浜市  今 回
 自民党 16名(27%) 14名(36%)  自民党 30名(35%)
 民主党 14名(23%)  8名(21%)  民主党 18名(21%)
 公明党 13名(22%)  7名(18%)  公明党 15名(17%)
 共産党 10名(17%)  4名(11%)  共産党  5名( 6%)
 みんな  6名(10%)  5名(13%)  みんな 13名(15%)
 無所属  1名( 2%)  0名       無所属  3名( 3%)
 ネット(神)0名       0名       ネット(神)1名( 1%)
                        諸 派  2名( 2%)
 定 員 60名      38名           86名

一方、横浜市は、川崎市と比較し、
1)みんなの党川崎市以上に大きく躍進
2)自民党公明党を合わせて過半数を占める
3)民主党は退潮どころか、大敗

一見、川崎市民主党は退潮のなかでも善戦していたかに見える。これは、横浜市との違いなのだろうか。定数配分等の問題だろうか。定数を有権者数で割り戻すと、定数削減の問題点が具体的に示される。

川崎市                 横浜市
 人口 142万             人口 368万人
 区   7区(平均20万人/区)    区  18区(平均20万人/区)
 定数 60名(平均8.6名/区)     定数 86名(平均4.8名/区)

区の平均人口は、ほぼ同一の20万人、これでも特例市に匹敵する大きさである。川崎市の議員密度は8.6名/区であり、横浜市の4.8名/区をしのぐ。これを横浜市並に補正すると定数は33名、約半分になる。
ここで7区の人口を考慮して人数を調整し、「38名」に設定してみる。今回の選挙結果からシミュレーションを試みると、上記の表に示した「削減案」になる。ここでは会派の得票数も配慮して当選者数を算出している。削減案を挟んで今回の両市の結果を比較する。

ここから川崎市での「仮想定数削減案(38名)」は、上位当選者が多い自民党みんなの党への影響はそれほど大きくなく、その全体に占める割合は高くなる。一方、下位当選者が多い民主党共産党が削減をもろにかぶることになる。更に少数会派、無所属にとっては致命的になるはずだ。

結果として、民主党の大敗、共産党の大幅減をもたらし、会派間の議員配分を横浜市に近づけることが判る。従って、今回の選挙結果は、必ずしも川崎市の特徴ではなく、議席の各区への配分数も含めて、定数の問題が大きいと言える。川崎市でも、横浜市でも同じような“国政代理選挙”の側面を強く持つのである。

言い換えると、浮動票を争う会派では、“国政”の影響を大きく受ける。今回は、みんな(期待)、民主(不評)、自民(回復)の票が如実にでている。しかし、状況によって一変することは、一昨年の東京都議選が証明している。一方、組織票をベースにする公明、共産両党では、閾値以下になると票割の有効性が薄れ、共産党にみられるように急激な影響を受ける。

誰しもわかるように、定数削減は原理的にみて少数者を排除する政治的仕掛けとして機能する。しかし、具体的にシミュレーションをしてみると、政治状況のクリティカルポイントがどのように変化するのか、想定を巡らすことが可能になる。この点にシミュレーションの意味がある。

但し、現状の川崎市では自民、民主、公明が市長追随会派として機能しており、クリティカルにはなり得ない状況である。定数削減は将にこの状況を強化する方向に働き、「議会」としてはより硬直化するであろう。一方、定数を現状維持すれば、それだけ機能しない議員が増えることを意味する。「議員数」としては冗長さを維持することになる。

少数会派、無所属議員は冗長さのなかで良い意味での“遊び”として機能していれば、その存在意義を示すことができ、定数削減はマイナスの要素が大きくなる。一方、多数派に屈服していれば現状でも存在感はないから、定数削減で忘れ去られる運命であろう。

このように、定数削減は前門のトラ、後門のオオカミの状態である。議論は袋小路に追い込まれるか、グルグルと回ることになるか、いずれにしても金銭の問題だけに還元されていく可能性は否定できない。これでは議会改革から遠く離れていくだけである。

この状況を打開するには、議会の原点に戻って考える他にない。

3.“敗者としての議会”から脱却へ

一昨年の都議会選挙は総選挙の前哨として報道され、その後の経過は周知のとおりである。この状況を例外的状況と断りながらも、『都議会は都政の機関として認知されなかった、と捉えるべき…都議選のもっとも深刻な「敗者」とは都議会…都政の意思決定機関を選挙することになっていなかった…』と喝破されたのは廣瀬克哉・法大教授であった。
(『市民と議会の条例づくり交流会議2009』資料集P4)

「例外的状況から逆算して政治的なるものに迫る方法は、リアリズム政治思想の発想の起点」とは政治学者・故永井陽之助氏の言葉である。
(『解説 政治的人間』「政治的人間」所収 (平凡社)1968)
例外事象としての都議選のなかに、実は『議会は置去り』にされたことを見抜くのは、鋭い政治的センスを必要とするであろう。筆者もこれを交流会議の報告で聴いたとき、“目から鱗が落ちる”であった。

廣瀬教授が先駆的に見抜いた“敗者としての議会”を顕在化させ、余りにも鮮やかに示したのが先の名古屋市会選挙であった。リコール選挙の結果が如実にそれを示し、減税日本の躍進と既存政党の退潮がコントラストをなした。ここでは、みんなの党も既成政党と同じく、呑み込まれていたことが印象的である。

今回の川崎市議会選挙は、都議選・名古屋市会選のように例外的状況とは違うが、基本構造は同じであり、半ば“国政代理選挙”であったことは免れない。これが議会批判と共鳴し、今回の結果が導き出されたのであれば、川崎市民は実質的な「意思決定機関」として市議会を、未だ十分に認知していないことになる。

以上のことから、先ず、国政代理選挙の状況から議会を解放することが川崎市議会にとって、次の選挙までの最大の目標になる。そうでなければ、地方分権は単に行政機構が国から地方へ移っただけのことになり、議会が機能しない「自治」は実質的に空洞化されたままになるからである。議員もまた、権限拡大の枠組のなかで行政機構への口出しに精を出すことになれば…悪夢である。

何よりも廣瀬教授が指摘された、住民から「意思決定機関」として実質的に認知を受けることが喫緊の課題である。そのためには、議会の見える化に始まり、『住民が“感じる”議会改革』を推進することが必須である。開かれた議会が自立することが何よりも求められる。

「意思決定機関」の名のもとに、実際は「追認機関」でしかないダブルスタンダードの状態が続けば、<河村待望論>は潜在的に強くなり、一触即発は免れなくなる。住民から認知を受けない状態を議会として維持すれば、住民の視点は経費削減に移り、政調費、議員報酬、海外旅行費はもとより、定数削減の圧力も日増しに強くなるであろう。また、議会内部での“自主的”定数削減の動きも目立ってくるはずである。

その結果として、今後の議会改革が、「意思決定機関」としての機能を強化する方向ではなく、経費削減・定数削減へ向いていく可能性がある。

意思決定機関として住民から認知されるように議会改革を進め、国政代理選挙から脱却し、地方分権の確立に寄与するのか?
経費削減・定数削減の圧力に晒され、自立できずに敗者としての議会に黙従するのか?

新生・川崎市議会は岐路に立たされている。最初の6月定例会が大きな関門になる。そこまでに、議会改革特別委員会の設置に合意できるのか、これをリードする会派はどこか、注目しよう。

       以上